interview

星 彰秀×田口 博之

interview ユーザー体験と自分の可能性を拡張する、EXNOAのAIクリエーター AI推進部

星 彰秀×田口 博之

●星 彰秀さん /(写真左)

合同会社EXNOA 市川スタジオ 第1企画ディビジョン部/AI推進部 コンテンツグループ
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスに入社。フィーチャーフォンからスマートフォンまで幅広いゲーム作りに携わった後、独立を経て2014年に合同会社EXNOAへ入社。現在は第1企画ディビジョン部部長 兼 AI推進部コンテンツグループマネージャーとして新作ゲームのプロデュース業務に従事する傍ら、ゲーム開発におけるAI活用のR&Dをリードしている。

●田口 博之さん /(写真右)

合同会社EXNOA AI推進部 コンテンツグループ
株式会社セガに新卒入社。アーケードゲームのデザイナーからキャリアを始め、HAL東京の講師、遊技機やソーシャルゲームのデザイナーを経て、2021年に合同会社EXNOAへ入社。デザイナーとして「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」や「アヴァロンの鍵」など様々なタイトルを手掛け、現在はデザイナーとしての経験を生かしながら、ゲーム開発におけるAIの活用について研究をおこなっている。

この記事のポイント

  • 「心と時代に残る、興奮を生みだす。」というミッションのもと、価値と価値を掛け合わせるクリエーションによって様々なゲーム体験を世に届けてきたEXNOA。ユーザーに価値ある体験を届けるために挑戦を続ける同社では、ゲーム開発やプラットフォーム運営におけるAI活用の可能性を模索するため、2023年12月にAI推進部を新設した。AIを活用することでゲーム作りの可能性はどのように広がるのか、クリエーターとしてどのようなスタンスでAIと向き合っているのか、AI推進部にお聞きしました。

    ※インタビュー内容は、取材当時(2024年8月)のものです。

「より良いゲームを届けるため」ユーザー価値創造のためのAI

――AI推進部ではどのようなことを行っているのでしょうか。

星 彰秀(以下、星)

EXNOAのAIに知見のあるメンバーが20名ほど集まり、2つのグループに分かれてAIの検証を行っています。

1つ目は、私がリードしているグループで、生成AIによるクリエイティブ制作を検証するグループ。画像生成、音声生成、アニメーション生成、シナリオ生成などゲーム作りに必要なコンテンツ全てにおいて、AIに何ができるのか、どんなところに課題があるのかを検証しています。

2つ目は、AIソリューションによる業務効率化の検証をするグループで、ユーザー数3,500万人を誇るゲームプラットフォーム「DMM GAMES」の運営をする上で、AI活用による業務効率改善や課題解決の検証をおこなっています。

田口 博之(以下、田口)
私は現在、画像生成AIを中心に、世の中に公開されているAIツールの調査と検証、実装データ作成をおこなっています。


――AIを使用して検証を行う際、意識していることはありますか?


大前提としてAIを使用してクリエイティブ制作をする際は、効率化を目的とするのではなく、”どんなユーザー価値を作れるか“に重きを置いています。AIはあくまでユーザーにより良い体験を届けるためのツール。自分たちがラクをするためのツールではないという考えです。

「AIと一緒なら、10年後も20年後も攻めの創作活動を続けられる」

――AIで画像生成等をする際、理想のアウトプットを得るのはなかなか難しい印象です。研究されてみて、いかがでしょうか?

田口

検証していくうちにAIの捉え方が変わりました。最初はAIは“ガチャ”のような意外性を求めるものだと思っていたのですが、意外なものばかりが出てきても商品にはなりません。生成AIに求めるのは、ゲームのプロデューサーがイメージしているものをズレなく生成すること。そこに狙いを定めて、いかにツールとして狙ったものが出せるかを検証しています。最近は“欲しいパーツを選んでボタンを押す”自動販売機のような感覚で使用していますね。

AIは“機嫌”次第で生み出すアウトプットが変わります。なので、“どうAIの機嫌を取るか”が良いものを生成させるカギですね(笑)。プロンプトにどんな情報を与えたら、こちらのイメージを理解して機嫌良く生成してくれるか、ゴールに辿り着くためにどう組み立てていくかを考えるのが大事です。


――AIを使用するメリットについては、どのように考えていますか?

田口

AIはマジョリティの中から解を出します。AIに質問すると、“世界の人はどう考えているか”をリアルタイムな情報で知ることができるのは重要です。

自分はもともとデザイナーとしてキャラクターを描いていたのですが、歳を重ねるにつれて描けなくなってしまいました。自分の絵がトレンドを押さえられていると思い込み、時代錯誤に気付けなくなっているのではないかと不安に思うようになったからです。年齢を重ねて周囲からの指摘が少なくなるほど、絵を描くこと自体が怖くなってしまいました。

ですが最近はAIの力を借りることで、また絵を描けるようになったんです。例えば今の20代の流行などについて質問すると、AIは具体的な提案をしてくれます。流行を押さえたり若者の感覚を取り入れる部分はAIの力を借りながら、自分は積み重ねてきた技術と知見でキャラクター作りに専念する。こうして自分のスキルとAIを掛け合わせることでやりたかったことを実現できるのは、夢があるなと。AIと一緒なら、10年後も20年後も、トレンドを押さえた攻めの創作活動ができる気がしています。


加えて、AIの良さは「捨てる」ことができることにあると思います。
何かアイディアやビジュアルイメージを形にする際に人に頼むと、時間的な制約や申し訳なさから何度もリテイクができず、妥協が生まれてしまう場合があります。でもAIであればお構いなしです。捨てることで試行錯誤の回数が増えるんですよね。その結果、量が質を生むことにつながると思っています。


――世間ではAIに対する懸念の声もあります。今後AIを使っていく中でリスクに感じることはありますか?

田口

どの時代でも、新しく登場したものは批判されがちです。私は約30年間デザイナーとして活動してきましたが、振り返ると「絵の具からデジタル」「デジタルから3DCG」と時代とともに求められるアウトプットや使用するツールが変わっていきました。時代時代で新しいツールが登場する度に、批判的な声は様々な角度からたくさん挙がりました。信じられないかもしれませんが「Photoshop」でさえも最初は懐疑的な意見がたくさんありました。

AIも同じで、懸念の声があるのもよく分かります。私も最初はAIに対して批判的な姿勢でしたから。実際に触ってみると意外と使えることに気づき、今は何かある度にAIに助けを求めています(笑)。
どのツールも同じなのですが、食わず嫌いせずに、まずは触ってみるのがいいのかなと。リスクはあるかもしれませんが、AIが当たり前になっていく時代の流れは避けられません。トラブルが生じたらその時に対策を考えるという向き合い方をする人が、新しいステージにいけるのではないかなと思います。


今はAI黎明期なので、ハレーションが生まれるのは当然なことだと思っています。ただ、作家に対するリスペクトや配慮が足りていない人がいるという点には懸念を感じています。例えば、憧れている作家の作品をAIでマネして作って、SNSで直接ご本人に送ったり。悪意はないのかもしれませんが、AIを利用した創作をする場合は、これまで以上に倫理観やコンプライアンスを意識しなくてはならないと思います。

AIは才能を拡張するためのツール、人間がやるべきことは変わらない

――これからAIが当たり前になっていく時代の中で、人間にできることは何でしょうか。


AIはあくまで自分の才能を拡張するためのツールだと感じています。AIがより優秀になっても、方向性を決めたりディレクションをするのは人間ですし、AIが生成したものに対して良し悪しを判断するのも人間なので、やるべきことは変わらないと思っています。

実際、同じ生成AIを利用して出したアウトプットでも、プロデューサーである自分と、デザイナーの田口のクリエイティブではクオリティが違うんですよ。ディレクションする人間のデザインセンス、知識、経験に基づく判断力は、AIを使ってもなお必要だと思います。

田口
AIを使っても、頭で考えて手を動かすことは必要ですし、思っていた以上に今までの経験が役立っています。AIを使って一発で理想的なアウトプットを出すのはまだ難しいので、私はパーツごとに分けてクリエイティブを制作しています。ゲーム制作ではキャラクター、背景、その他のパーツなど全てがパラレルに進んでいくので、何が完成形なのか、それに対してどんなクリエイティブがハマるのかをイメージできていないと、組み合わせた時に上手くいきません。その想像は人間でしかできないし、クリエーターの力が問われる部分です

あと、人間が生み出すものにはその人の人生も反映されていますが、AIには“バックボーン”がありません。例えばゴッホが手掛けた『ひまわり』は、絵画そのものだけでなくゴッホが歩んできた人生も含めて人々に感動を与えていると思うんです。この部分はAIでは賄えない表現領域だと思いますね。


そうですよね、人間にしか生みだせないアートや伝統芸能は今後も残りますよね。全てがAIに取って代わるわけではないし、もし代替されるものがあったとしても人間は人間にしかできない価値を新たに創造し続けると思います。

田口
そんな時代が訪れたとしても、AIに刺激を受けて「もっと良いものを作ろう」ってなる人も現れるんじゃないかと思うんですよね。クリエーターってそういう生き物かなと(笑)。

黎明期の今、AIを活用したモノづくりをすることは、クリエーター人生の財産になる

――最後に、AI推進部のみなさんが、これから実現したいことや、想いを聞かせてください!


AIの技術進化のスピードは非常に早くて、先月できなかったことが今月できる、今月できないことは来月できるというスピード感です。それは人間の代わりにできるようになるというだけでなく、AIじゃないとできない新たな価値も含まれます。

我々はAI時代の目撃者になるだけでなく、当事者として、これまで以上にコンプライアンスを徹底しながら、AIの可能性を探り、コンテンツの幅も広げていきたいですね。

そして共に時代を切り開いていく仲間を増やしたいです。好奇心旺盛なクリエーターにジョインしてもらいたい。ちなみに、我々も本格的にAIを触り始めたのは半年前からなので、まだまだスタート地点にいます。デザインの素養があれば、AIのスキルセットは個人活動レベルで問題ないので、楽しみながら常に工夫して新たな価値を創造できるメンバーが増えたら嬉しいです。


田口
モノづくりは試行錯誤の繰り返しなので、AIの活用においても創作活動には根気がいります。1つのことをコツコツと続けられる職人気質な方が向いていると思いますね。

AIはクリエーターの才能を拡張し、可能性を広げてくれるツールだと実感しています。理想が高いからこそ自分の力に限界を感じている人や、時流を読んで新しいことにチャレンジしたい人には、ぜひお会いしてみたいです。


AIの黎明期である今、このタイミングで先行して創作活動にAIを取り入れることは、クリエーター個人の貴重な財産になると思います。EXNOAのここまで培ってきたノウハウは惜しみなくお伝えしますし、EXNOAには確立してきた強みや、DMMグループとしての恵まれた環境があります。そんなフィールドを存分に活かして、ぜひ一緒にチャレンジしましょう!

DMM GAMESでは、一緒に働ける新しい仲間を
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Top Recruit 社員インタビュー ユーザー体験と自分の可能性を拡張する、EXNOAのAIクリエーター